金子エンタ!

小説「文房具屋に生まれて」

2015.02.01 Sunday


第11章 おかんとぼくの暗黙同盟


12月になって、その年はじめて雪が降った日、ぼくの住んでいる梶田町が市に昇格した。
大阪市のベットタウンとして人口が増え、町が栄えた証だった。
おばーちゃんのお店はてんやわんやだった。

町中の会社や商店が名刺や封筒などの印刷物を作り直さないといけなかったので、印刷物の特需がやってきた。
それに加え、年末の需要と重なり、もはや、おかんとおばーちゃんとおとんだけでは、どうしようもないくらい忙しかった。

ぼくも、放課後は友達ともほとんど遊びに行けず、夕飯までの時間をお店の手伝いに借り出された。

ある日の夕飯で、おとんはパートの事務員さんと配達員を雇うと言い出した。

おばーちゃんは「いつ暇になるかもわかれへんし、家族以外には気を使うから、そんなんやめとき」と言った。

ぼくはおかんもおばーちゃんの意見に賛成するのかと思ったけれど・・。

おかんはよっぽど忙しかったのか・・。

以外に「パートやったら、暇になった時やめてもらえばええやん」と珍しくおとんの肩をもった。

おばーちゃんは珍しくむっとしていた。
1週間くらいたった頃、電話工事の人が来て電話を設置にやってきた。

最新式の電話機だった。

サーモンピンク色でダイヤルの部分が丸くなく、その代わりに0から9のボタンと#と書かれたボタンが付いていた。
次の月曜日、学校から帰ってきたら北島さんというおばちゃんと、木村正志という名のおにーちゃんがお店にいた。

その頃になると、店に買いにくるお客さんより、配達が多くなっていたので、おとんが陳列棚を2つ潰して、グレーの事務机を2台置いた。

壁に向かって北島さんと正志にーちゃんは隣同士座っていた。

「ぼく、こんにちは。
これからよろしくね」と北島さんがいった。

正志にーちゃんは「よろしくお願いします。
」と小学生に向かって敬語だった。

なんか家族が増えたみたいだったので、ぼくはすごく嬉しかった。
電話番の北島さんはおかんよりちょっと年上で、大阪市内の一流商社に勤めた経験がり要領がものすごくよかった。

おかんは電話に出ると、すぐ世間話に花を咲かせ長くなるのだけれども、北島さんは用件だけをてきぱきと聞いてすぐに電話切っていた。
しかも感じがよかった。

1週間もたたないうちに北島さんは、おばーちゃんとおかんを足したくらいの電話の量をこなしていた。
正志にーちゃんは苦学生で、電車で5つ離れた駅の夜学生だった。

奈良県で一番京都よりの町の出身で、大阪の夜間大学に通うためこの町に下宿していた。

絵に描いたようなまじめ人間で、おとんとそっくりな黒ぶちのめがねをかけていた。
ある日から、正志にーちゃんとおとんがペアーで配達に出かけるようになった。

おとんが車を運転して、配達先の前に止め、正志にーちゃんがダッシュで商品を持って行き、お金をもらってくるというやり方だった。

その作戦は功をそうし、こちらもまた倍くらいの配達をこなした。

ある日からおかんとぼくは、暗黙に同盟を結成した。

おとんとおばーちゃんが事あるごとに、北島さんと正志にーちゃんを褒めるので2人とも嫉妬に頭を支配されていたからだ。
夕飯ではいつもおかんは北島さんのことを「杓子定規やわ」と悪口をいい、ぼくは正志にーちゃんのことを「声が小さいくて、元気がないわ」と生意気を言った。
同盟中、おかんは気持ち悪いくらい優しかったし、ぼくも気持ち悪いくらいおかんの前でよい子だった。

冬休みに入って間もないある日、おばーちゃんのお店に緊急事態が発生した。

おとんが39度の熱を出し、おばーちゃんが持病の胃痛で同時に寝込んでしまった。
朝出勤して来た正志にーちゃんがそれを知ると、おかんの自転車の荷台にダンボール箱を縛り付けて、商品と伝票を握り締め、鬼の形相で配達に出かけた。

ぼくも負けじと自転車で配達に出かけた。

北島さんも朝から、いつもよりいっそう眉毛をきりっとさせ、電話を掛けまくった。

車でしかいけなさそうそうな、得意先を住所録でしらべ配達は明日以降になると説明していた。

おかんも燃えていた。

持って出た商品を配達し終わり、お店に戻るとおかんが次の「品出し」をしてくれていた。

いつしか自然にぼくとおかん、北島さんと正志にーちゃんというペアーになっていた。

文房具屋に生まれたぼくと、文房具屋に嫁いだおかんにとってこの勝負は負ける訳にいかなっかった。

もちろん、北島さんと正志にーちゃんはそんなことを、意識しているはずもなかったのだけれど・・。

4人は1日中走り回った。
自転車で行ける範囲の配達が全て終わった頃、ちょうど日が暮れた。

「そろそろ終わろうか」とおかんがいった時、正志にーちゃんが「どうせ、もう学校も間に合えへんし、もう一件だけ行ってきます。
」といった。

北島さんが1件の得意先に電話をした。
午前中に電話して怒られたお客だった。

「さきほどは失礼しました、今からお伺いできるかもしれませんが、今日は何時までいらっしゃいます?」・・「では、今から行きますので7時前には着くと思います」といって電話を切った。

そして「マサくん、もう一件がんばって」といって商品と伝票を正志にーちゃんに渡した。

正志にーちゃんはいつになく大きな声でにやけながら「行ってきます」と出て行った。

勝負はぼく達の逆転負けだった。
おかんは「松葉屋で巻き寿司15本とタカラブネでケーキ5個こうといで」といってぼくに千円札2枚と五百円札1枚を渡した。

いつもより、だいぶ遅い夕飯は、いつもと違う顔ぶれだった。

おとんの席に正志にーちゃん、おばーちゃんの席に北島さんが座った。
巻き寿司をかぶりつきながら、おかんとぼくの暗黙の同盟は暗黙のうちに解散することにした。

理由はよくわからなかったけれど、爽やかですっきりした気分の夜だった。


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