金子エンタ!

小説「文房具屋に生まれて」

2017.02.07 Tuesday


第3章 通天閣


おとんが文房具屋デビューして次の土曜日、5人で船場に仕入れに出かけた。
先週までは、ぼくとおばーちゃんとおかんという面子だったが、そこにおとん加わり、さらに良子までついてくることになった。

おとんが良子を誘った。
「りょうちゃんも一緒にいくか?」
「行く!!」
良子はどこに何しに行くかも知らず、ただおとんに誘われことがうれしくて返事していた。
いつもはおかんの姉の中川のおばちゃんのところに良子を預けていた。

ぼくは良子を連れいくことに反対だった。
「仕入れは大事な仕事で遊びにいくのではないのだから、きっと足手まといになる」そう考えた。
おとんは長い距離を歩くが苦手なので、自転車で駅まで行くといって先に出た。

駅までの道すがらぼくはおかんに、何度か言ってみた。
「良子は中川のおばちゃんとこに預けといたほうがええんちゃう?」おかんはぼくの進言を無視はしないまでも、軽くあしらっていた。

ぼくは少し良子に意地悪をした。
おかんの見えないところで背中を押したり、手をわざとぶつけたりした。

良子はぼくと違い根性があるというか、芯が強いというか、とにかく滅多なことでは泣いたりしない。
案の定、良子がいたせいで、駅までいつもの1.5倍の時間がかかった。
駅舎が見えた時、おとんは自転車の荷台に座ってタバコをふかしながらぼく達をまっていた。
おかんが切符を買っていたとき、ホームに水色の電車が入ってくのが見えた。

ぼく達は急いで改札を通り電車に乗り込んだ。

土曜の午後の上り電車はいつもがらがらで乗客もまばらである。

ぼくはいつものようにはおばーちゃんの横に座り、窓の外を眺めていた。

新今宮の駅あたりで、車窓から通天閣が見える。

通天閣は大阪のシンボルであるが、東京タワーなんかと比べ、なにか不細工で垢抜けせず、かっこよくないと思っていた。
どちらかと言えばあまり好きではない。
船場に着いて、さっそく馴染みの問屋をまわった。

おとんは今日がデビューなので、「ぼくがいろいろと教えてあげよう。
」心の中でそう思っていた。
南海商事の軒先に着くと、いつもの倍くらい大きな声で「ま・い・ど!!」と叫んだ。

店員が一斉に「はい、毎度!!」と威勢よく返してくれる。
ぼくは一端の店主気取りだった。

おばーちゃんとおかんは仕入れ帳簿と在庫の帳簿を見ながら、慎重に商品をカゴに入れている。

ぼくはおとんの腕を引き、店内を自慢げに案内した。

その後、3件の問屋をまわり、来週分の仕入れは終わった。

帰りの電車は行きよりも少し混んでいた。
当時の日本は週休1日で会社も学校も土曜日は半どんというスタイルだった。
車内は早めの一杯を済ませたサラリーマンと、まじめに残業をしたサラリーマン、部活終えた学生と買い物帰りの人がおおよそ均等にまじりあっていた。

良子は車内をキャッキャと騒ぎながら走りまわっていた。
ぼくの前を通過しようとした瞬間。
ぼくの手は良子の頭を思い切りたたいていた。

「バチーン」自分でもびっくりするくらいの音がして車内は静まりかえった。

そして車両にいた全員がぼくのほうを見た。

5秒後、目をまんまるにした良子の泣き声が車内の沈黙をやぶった。

おかんはあわてて良子を抱きかかえ、頭を撫でながらなだめ、同時にぼくの頭をこずいた。

良子の叫び泣きはおかんがなだめればほど大きくなっていき車内に異様な空気が漂った。
ぼくたちは次の駅で下車した。

電車を降りてからもいっこうに泣きやまない良子をおとんが抱き上げ、ほっぺたにチューをしたところでようやく声を上げなくなった。
今度はぼくの目に涙が溢れてきた。

悪いことをしたという思い、反面そんなつもりではなかったという自分への言い訳、いろんな思いが涙となって溢れ出た。

本当は声を上げて泣きたかったのだけれども、それだけは絶対にあかんと自分に言い聞かせ、必死でこらえた。
次の電車を待っている間、だれも何も言わなかった。
しばらくしておとんが「学生の頃よういった店が近所にあるから、餃子でも食うて帰るか」と独り言のように呟き、改札に向かった。
みんな無言のままおとんの後ろについていった。

改札をでたら目の前に通天閣がそびえていた。
涙でにじんだ通天閣はますます意地悪な色で、ぼくののことを鼻で笑っているように思えた。


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