金子エンタ!

小説「文房具屋に生まれて」

2015.02.01 Sunday


第27章 文房具屋に生まれて


この日、ぼくは文房具屋に生まれたことを後悔した。
次ぎに生まれ変わるなら、出来れば文房具屋以外がいい・・と思った。
毎週、月曜日の朝は、学校の講堂で学年集会が行なわれる。

学年集会は風紀検査と言うのがあって・・男子は坊主頭が規則以上に伸びていないか?改造の制服を着ていないか?
女子は髪の毛が眉毛に掛かっていないか?スカートが長すぎないか?ぼく達はクラス単位で出席番号順に列になり、それぞれ担任の先生が前から順にチェックしていく。
その後、学年主任の先生が「タバコは絶対にあかん!!」とか「シンナーを吸うと最後に幻覚を見て、シンナーを飲んで死んでしまう!!」とか、「不純異性行為で子供ができて青春を全て棒に振った」的な話をして・・。

とにかく悪いことや、非行と呼ばれる行為をしてはいけないという内容が、こんこんと30分くらい続く。
時には、バイクで事故をした少年の生生しい8ミリ映画を見せられて・・月曜の朝から
心がなえる・・。
そんな集会だった。
ある月曜日の朝、
学年集会が終わって教室に向かう渡り廊下で、となりを歩いていた3組の中村が言った。

「貧乏具屋(びんぼうぐや)の金田やんけ・・」文房具屋と貧乏具屋をかけた、ほんの冗談だった・・。
周りを歩いていた10人くらいの生徒が一斉に笑った。
ぼくは生まれて初めて本気で人を殴った・・。
視界が真っ赤になって、頭の中が真っ白になっっていた・・。
ふと気づいたら・・先生達に羽交い絞めにされ、となりで中村が口から血と泡をふいて倒れこんでいた。
そのまま、ぼくは生活指導室に連れて行かれて・・。
しばらくすると、救急車が校内に入ってくる音が聞こえて、中村が外科病院に運ばれていくのがわかった。
担任の先生が家に電話をして、おかんがあわてて学校にやってきた。
「すんません・・すんません・・」とおかんが何回もあやまって、担任の先生が「金田、何で中村をあそこまで殴ってん?」と、となりのおかんを見ながら聞いた。
ぼくはずっと黙っていた。
一時間くらいおかんがあやまりっぱなしで、担任の先生が「金田のおかーさん、後は本人とゆっくり話しますので・・」といって、おかんが生活指導室から出て行った。
それから、半日、、代わる代わる何人もの先生が生活指導室にやって・・。
国語の川村先生は「金田くん、いつもやさしいのに何でそんなことしたん」ととても優しく聞いて・・。

体育の重森先生は「中村は口の中を10針縫うてんぞ・・。
暴力は弱いやつのすることや!!男として強くなれ!!」と説教してから、「なんで殴ってん?」と聞いた。
どの先生も一様に「なんで殴ったか?」の理由を聞いた。
ぼくはずっと黙っていた。
5時間目終了のチャイムがなったとき、担任の杉田先生が生活指導室にぼくのかばんを持ってきて「金田、今日は帰れ」と言った。
生活指導室を出て、校庭の隅を歩き、校門をくぐって家に向かう川沿いの道を歩いて・・。

家に帰るいつもの道で、何が起こったのか少し考えてみたのだけれども・・。

頭がガンガンとうずいて・・足もやたら重かった。
お店の前で、、もちろん躊躇して、勇気をふりしぼりドアを開けた。
「ただいま・・」「お帰り・・」と重低音の声でおかんが言った。
すぐに自分の部屋に入って、、後悔し泣いた・・。
しばらくすると、「アキ、、中村くんとこ行くで・・」とおかんが店からぼくを呼んだ。
おかんとぼく2人で自転車に乗って・・駅前のタカラブネでシュークリームを10個買ってから、中村の家に向かった。
おかんがアパートの扉をノックして、ぼくは胃が口からでそうになって・・中村のおばちゃんが扉を開けて・・おかんはタカラブネのシュークリームを下駄箱の上に置いて、いきなり玄関先で土下座をした。
ぼくも地べたに座り込んだ。
「ほんますいません・・。
」とおかんが頭を地面こすりつけた・・。
その日の夕飯・・ぼくの異様に腫れた右手を見て、おとんが車で病院に連れていってくれた・・」
中村を殴った僕自身の右手の小指と薬指が骨折していて・・。
その日を境に、ぼくは文房具屋に生まれた自分の人生を恨んだ・・文房具は見たくもないし、できればサラリーマンの家に生まれたかった・・と思った。
消しゴム1個50円、、鉛筆1本30円、、
このケチ臭い・・商売はなんなんやろう。
寝るところも、起きるところも、帰ってくるところも、文房具屋しか選択肢がなかったので、物理的な縁を切ることは、もちろん出来なかったけれども・・。
それから長い間、、ぼくは文房具屋と文房具に対して心の中で縁を切った。
「お父さんは何の仕事してはんの??」と誰かに聞かれるたびに、、「事務機の販売会社の経営です」と答えるようにした。
今から7年前かな、・・・ようやく思い出した・・
「文房具屋に生まれて」やっぱり、よかったということを・・。


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