金子エンタ!

小説「文房具屋に生まれて」

2015.02.01 Sunday


第30章 祭りの後に・・(前編)


中学1年の夏が来て、僕の身長は160cmを超えて、おかんを見下ろすようになった。

小さいころ、あんなに大きく見えたおとんも、さほどでもなくなり、おばーちゃんに至っては、ものすごく小さく見えてきた頃。
ぼくが住む町の町内会では、中学に上がると青年団の下位組織、少年団に入団する。

青年団といえば、消防訓練や町内の大掃除、年末は夜警など、あまりぐっとくるような活動はないのだけれど、、、夏祭りだけは違った。
むしろ夏祭りのために、その他の献身的な活動をやっている的なところが、本当のところだったのだ。
ぼくの町は、高層ビルが立ち並ぶような都心でもないし、自然がいっぱいで空気がおいしいくて、新鮮な魚がうまいといった所でもない、きわめて中途半端な町ではあったが、唯一の自慢がだんじり祭りだった。
大阪府岸和田市のだんじり祭りがあまりにも有名で、その影に隠れた祭りではあったが、ぼくの町のだんじり祭りも、かなりの伝統があり、近隣の町からもギャラリーがたくさんやってくるほどだ。
町には大戸町、大戸町東、隅市町、崎原町、4つの地区があり、それぞれのだんじりをもっていた。
大戸町と崎原町には本物のだんじりがあって、隅市町は布団だんじりで、僕の住む大戸町東は、かなりしょぼいだんじりだった。
大戸町と崎原町の本物のだんじりは、小さな家くらいの大きさがあり、それぞれの部品全部にかっこいい彫り物が施され、近くに行くと身震いするような迫力がある。
隅市町の布団だんじりは、家の2階くらいの高さがあって、天井には真っ赤な布団のやぐらがあって、それはそれでものすごく、ぐっとくる美しさがあった。
ぼくの町内のだんじはというと、組み立て式でコマの上に木製のやぐらを組んだ簡易式のものだった。
小さい頃から、この町のだんじりにはコンプレックスはあり、大戸町か崎原町に生まれればよかったと何度も思ったが、それでも、ひとつだけいいことがあったのだ。
他の地区では祭りの主役は青年団の若手、つまり高校生や大学生くらいの年齢で、ぼくの住む地区では、だんじがあまりにもしょぼいので、そのくらいの年齢になると、みんな祭りに参加しなくる。

したがって、少年隊(中学生)がだんじりに乗り込みたいこや鐘を叩く、主役だったのだ。
祭りの前週の土曜日、各地区の青年団団長と副団長、理事という面々で町の公民館の会合室に集り、だんじりの運行時間やコースなどを話合う。

その会合には梶田警察の警ら部長も出席して、この町には似つかない、たいそうな会合だった。
運行時間やコースなんてここ何年も変わっていないので、わざわざ会合を開く必要もなのだけれども、なんとなく夏祭り前の儀式みたいなもので・・。
僕と、中3で二つ年上の正樹くん、青年団団長、米屋の越智のおっちゃん、3人で会合室に入ると、他の3地区のメンバーが既にパイプ椅子に深く腰掛けていて、、梶警の警ら部長が警察の制服独特のにおいをさせてタバコをふかし・・。
僕たち以外は、みんな割腹のある大人で迫力満点の面々だった。
越智のおっちゃんは米屋という力仕事の割に、縁なしメガネのやさ男で、青年団団長なんておおよそ似つかないタイプおっちゃんで、、青年団団長いえばたいがいは、町の名誉職なのだけれども、僕の住む地区に限っては、ほとんどの家が商売をしているため、団長役は敬遠すべきお役だったのだ。
お人よしの越智のおっちゃんは半ばというか、ほとんど押し付けられた感じで、青年団団長に任命され、ここ数年代わり手もなく仕方なしに・・という感じだ。

会合室の扉を開けた瞬間、、勝負は決していた・・。
子供2人にやさ男・・まさに、へびに睨まれた蛙で、僕たち3人は背中を丸め、ちじこまったまま、椅子に座り固まっていた。
大戸町団長、焼肉屋の安さんが、ふ・ふ・と鼻で笑って、「ほな初めよか・・」と言い会合がはじまった。
「8時からの最後の取り回しは、去年通り隅市町、大戸町、大戸町東、崎原町の順番で異議はないわな?」安さんが言った。
越智のおっちゃんが「おう」と、精一杯威勢を張ったが、、その声は明らかに震えていて、やっさんがまた、「ふ・ふ・」と鼻で笑い、会合が終了した。
会合室を出ると、ぼくは背中にびっしょりと汗をかいて、おしりの付近までぐっしょりとなり、、今まで味わったことのない緊張を肌で感じたのだ・・。
翌週、祭りの火蓋が切って落とされた・・。
学校から走って帰って帰り、さらしとはっぴ、足袋に着替え、、だんじりに向かった。

だんじりのしょぼさに比べ、格好はそれなりにまあまあだ・・。
ぼくの地区は少年隊11名で、太鼓と鐘を代わる代わるにまわす。
昼間はだんじりと言ってもおとなしいもので、子ども会の小学生達が綱で引っ張りゆったりと町内をまわる。


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