全章の一覧

    プロローグ    第1章 おばーちゃんの店    第2章 おとんの決断    第3章 通天閣
    第4章 オートマチック TOYOTA かむり    第5章 ブルーメタリックの万年筆    第6章 小さな文具屋のイノベーション
    第7章 一家に一台「マイ ティーチャー」    第8章 1ダースの消しゴム    第9章 「昭和の第4コーナー」
    第10章 くすり屋に生まれて    第11章 おかんとぼくの暗黙同盟    第12章 幸運の白いヘビ
    第13章 パンチパーマとおんなごころ    第14章 誕生日には筆ばこを・・    第15章 「ままならず」の呪文
    第16章 ファーストラブ(初恋)    第17章 世界で一番暑い秋    第18章 かすれ声のアカペラ・・(素歌)
    第19章 真珠とおしるこ(前編)    第20章 真珠とおしるこ(後編)    第21章 tough pulling(引きの強さ)
    第22章 文房具屋の匂い・・    第23章 さくら色の嘘    第24章 男子、たまに泣いてもいいんよね
    第25章 走ればええねん。ただ速く!!    第26章 朝ごはん、食パン、チーズとマヨネーズ    第27章 文房具屋に生まれて
    第28章 夜道に紺色の浴衣    第29章 違う理由    第30章 祭りの後に・・(前編)    第31章 祭りの後に・・(後編)

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第23章 さくら色の嘘

小学校卒業まであと2週間となった、ある日・・
松下くんが、「今度の日曜日、奈良公園に行こうや。」と誘ってきた。
ちょっとした卒業旅行のつもりだったんだろう。

「2人だけやったらつまらんし、もっといっぱいクラスのやつら誘おうや!!」と松下くんが提案したので、僕たちは放課後”ちょっとした卒業旅行”の企画のための会合を二人で開くことになった。

いつもは松下くんがうちのお店来ることのほうが多かったのだけれど、「今日はうちを少し手伝わなあかんから、うちに来てくれへんかな?」といった。

松下くんの家は駅前にあり、「自転車預かり」という商売をやっていた。
駅の駐輪場は30台程度の自転車しか置けないため、朝早くに埋まってしまう。
駐輪場以外に止めておくと、たまに警察に持っていかれたり、サドルを取られたり、かごが缶ジュースの空き缶で一杯になったりと、それ相当の天罰を頂くことになる。

そのため「松下自転車預かり所」は大阪市内に通勤するサラリーマンや学生に重宝されていた。
1ヶ月契約が200円、1日置きが50円で、時間のない朝に預かり所の前に乗り捨てておくと、おばちゃんが勝手に敷地内に移動してくれし、頃合を見計らって、チェーンに油を差してくれるのだ・・。

松下くんのおかんは、とにかく声のトーンと心のテンションが高いおばちゃんだった。
朝から晩まで自転車を預けに来る人々に機関銃のごとく話かけて、「ぎゃは・は・は!!」とオレンジ色の笑い声をあげる。

おばちゃんは「ちゃりんこママ」という異名を持っていた。
ぼくの町では自転車が盗まれたら、警察に行く前に松下自転車預かり所に行く。
そしておばちゃんに盗まれた自転車の特徴を言うと、しばらくしておばちゃんから「あんたの自転車帰って来たで、取りにおいで」と電話が掛かってくる。
盗難自転車はどういうわけか、最後には必ず松下自転車預かり所に集まる運命になっていたのだ。
反面、松下くんのおっちゃんは頑固もので口数が少なく、近寄り難い昭和のおやじだった。
ぼくは、おっちゃんとおばちゃんがなんで夫婦になったのか、いつもとても不思議だった。

松下くんの家に着くと早速ぼくらは、”ちょっとした卒業旅行”に呼ぶメンバーをノートに書き出した。
「金田、松下、中岡くん、谷本さん、南条さん・・・・・」
「デストロイヤー城木はどうする?」と僕が聞くと、「誘わへんで、後でばれたらやばいから一応入れとこ」と松下君が言ったので城木くんの名前をノートに書くことにした。

結局14人誘って8人が”ちょっとした卒業旅行”に参加することになった。
最後まで悩んだけれど、城木くんは誘わなかった。
「もうすぐ卒業やし、めんどくさいことになっても春休みがあるからいけるやろ」とぼくがいって、松下くんが「せやな~、あとの面倒より、おもろなくなったら最悪やからな」と言った。

それから、”ちょっとした卒業旅行”の前日まで毎日放課後に松下くんと南条さんと谷本さんがうちに店に来て、4人でパンフレットを作った。
谷本さんは勉強もできるのだけれど、絵もものすごくうまかった。
最後に谷本さんが表紙に鹿の絵を描いて、僕が参加メンバーの人数分、お店のコピー機で複写して、パンフレットが出来上がった・・。

”ちょっとした卒業旅行”は大成功だった。
奈良公園ではみんな笑顔で・・・、帰りの駅での別れ際は泣きべそだった。

その日、ぼくは恋に墜ちた・・。

卒業までの1週間、ぼくは谷本さんのことばかり考えて・・学校でも家でも、1時間に1回は胸がギンギンにうなっていた。

けれど結局、どうも出来ないまま1週間が過ぎ、卒業式を迎えることになってしまった。

卒業式は思いのほか、あっけなく終わって・・・。

その夜、ぼくは生まれてはじめてラブレーターを書いた。

「谷本さんへ・・・卒業して間もないけれど、もうみんながが恋しいです・・・」ではじまり
「・・・・お互い中学生になりますが、たまに遊びに行きませんか?よかったらお返事ください」で終わる一生懸命大人びたラブレーターだ・・

ポストに入れて谷本さんの親に見つかると嫌だし、電話を掛けて呼び出す勇気もなくて・・・僕はその手紙を松下くんに託した。

松下くんは次に日以降、1日に2~3回谷本さんの家の前を自転車通り、この手紙を渡すチャンスを伺ってくれた。

「今日はどやった?」
「あかん・・今日は20分くらいねばってんけど谷本、家からでてけえへんかったわ・・」

「今日はどやった?」
「今日もあかんかったわ・・・・・」

4日くらいたった日の夕方、松下くんがぼくのお店にやってきた。

「どやった??」
「ごめん・・自転車に乗ってたら風で手紙ドブに落としてもうて・・・」

僕はなんとなくほっとした・・。

白か黒か出来れば結果が出なければいいのにと、思い初めていたからだ・・。
「松っつん・・ええよ・・、また書いて今度は自分で渡すわ・・。」

ぼくは、2通目の手紙を書かなかった・・

そしてぼくらは、校門のさくらの花びらに迎えられ梶田中学校に入学した。

10年近く経った同窓会で・・・

「金田くん、あの時の手紙ありがとうね・・。」と谷本さんが僕に言った。

あの時、松下くんは手紙を渡してくれていた。

あっけなく振られたぼくのことを一生懸命傷つけないようにと・・。

松下くんは嘘をついた・・。

「松っつん・・さくら色の嘘、ありがとう・・・」