全章の一覧

    プロローグ    第1章 おばーちゃんの店    第2章 おとんの決断    第3章 通天閣
    第4章 オートマチック TOYOTA かむり    第5章 ブルーメタリックの万年筆    第6章 小さな文具屋のイノベーション
    第7章 一家に一台「マイ ティーチャー」    第8章 1ダースの消しゴム    第9章 「昭和の第4コーナー」
    第10章 くすり屋に生まれて    第11章 おかんとぼくの暗黙同盟    第12章 幸運の白いヘビ
    第13章 パンチパーマとおんなごころ    第14章 誕生日には筆ばこを・・    第15章 「ままならず」の呪文
    第16章 ファーストラブ(初恋)    第17章 世界で一番暑い秋    第18章 かすれ声のアカペラ・・(素歌)
    第19章 真珠とおしるこ(前編)    第20章 真珠とおしるこ(後編)    第21章 tough pulling(引きの強さ)
    第22章 文房具屋の匂い・・    第23章 さくら色の嘘    第24章 男子、たまに泣いてもいいんよね
    第25章 走ればええねん。ただ速く!!    第26章 朝ごはん、食パン、チーズとマヨネーズ    第27章 文房具屋に生まれて
    第28章 夜道に紺色の浴衣    第29章 違う理由    第30章 祭りの後に・・(前編)    第31章 祭りの後に・・(後編)

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第27章 文房具屋に生まれて

この日、ぼくは文房具屋に生まれたことを後悔した。次ぎに生まれ変わるなら、出来れば文房具屋以外がいい・・と思った。

毎週、月曜日の朝は、学校の講堂で学年集会が行なわれる。
学年集会は風紀検査と言うのがあって・・

男子は坊主頭が規則以上に伸びていないか?改造の制服を着ていないか?
女子は髪の毛が眉毛に掛かっていないか?スカートが長すぎないか?

ぼく達はクラス単位で出席番号順に列になり、それぞれ担任の先生が前から順にチェックしていく。

その後、学年主任の先生が「タバコは絶対にあかん!!」とか「シンナーを吸うと最後に幻覚を見て、シンナーを飲んで死んでしまう!!」とか、「不純異性行為で子供ができて青春を全て棒に振った」的な話をして・・。
とにかく悪いことや、非行と呼ばれる行為をしてはいけないという内容が、こんこんと30分くらい続く。

時には、バイクで事故をした少年の生生しい8ミリ映画を見せられて・・月曜の朝から
心がなえる・・。そんな集会だった。

ある月曜日の朝、
学年集会が終わって教室に向かう渡り廊下で、となりを歩いていた3組の中村が言った。
「貧乏具屋(びんぼうぐや)の金田やんけ・・」

文房具屋と貧乏具屋をかけた、ほんの冗談だった・・。

周りを歩いていた10人くらいの生徒が一斉に笑った。

ぼくは生まれて初めて本気で人を殴った・・。

視界が真っ赤になって、頭の中が真っ白になっっていた・・。

ふと気づいたら・・先生達に羽交い絞めにされ、となりで中村が口から血と泡をふいて倒れこんでいた。

そのまま、ぼくは生活指導室に連れて行かれて・・。

しばらくすると、救急車が校内に入ってくる音が聞こえて、中村が外科病院に運ばれていくのがわかった。

担任の先生が家に電話をして、おかんがあわてて学校にやってきた。

「すんません・・すんません・・」とおかんが何回もあやまって、担任の先生が「金田、何で中村をあそこまで殴ってん?」と、となりのおかんを見ながら聞いた。

ぼくはずっと黙っていた。

一時間くらいおかんがあやまりっぱなしで、担任の先生が「金田のおかーさん、後は本人とゆっくり話しますので・・」といって、おかんが生活指導室から出て行った。

それから、半日、、代わる代わる何人もの先生が生活指導室にやって・・。

国語の川村先生は「金田くん、いつもやさしいのに何でそんなことしたん」ととても優しく聞いて・・。
体育の重森先生は「中村は口の中を10針縫うてんぞ・・。暴力は弱いやつのすることや!!男として強くなれ!!」と説教してから、「なんで殴ってん?」と聞いた。

どの先生も一様に「なんで殴ったか?」の理由を聞いた。

ぼくはずっと黙っていた。

5時間目終了のチャイムがなったとき、担任の杉田先生が生活指導室にぼくのかばんを持ってきて「金田、今日は帰れ」と言った。

生活指導室を出て、校庭の隅を歩き、校門をくぐって家に向かう川沿いの道を歩いて・・。
家に帰るいつもの道で、何が起こったのか少し考えてみたのだけれども・・。
頭がガンガンとうずいて・・足もやたら重かった。

お店の前で、、もちろん躊躇して、勇気をふりしぼりドアを開けた。

「ただいま・・」

「お帰り・・」と重低音の声でおかんが言った。

すぐに自分の部屋に入って、、後悔し泣いた・・。

しばらくすると、「アキ、、中村くんとこ行くで・・」とおかんが店からぼくを呼んだ。

おかんとぼく2人で自転車に乗って・・駅前のタカラブネでシュークリームを10個買ってから、中村の家に向かった。

おかんがアパートの扉をノックして、ぼくは胃が口からでそうになって・・

中村のおばちゃんが扉を開けて・・

おかんはタカラブネのシュークリームを下駄箱の上に置いて、いきなり玄関先で土下座をした。

ぼくも地べたに座り込んだ。

「ほんますいません・・。」とおかんが頭を地面こすりつけた・・。

その日の夕飯・・ぼくの異様に腫れた右手を見て、おとんが車で病院に連れていってくれた・・」
中村を殴った僕自身の右手の小指と薬指が骨折していて・・。

その日を境に、ぼくは文房具屋に生まれた自分の人生を恨んだ・・

文房具は見たくもないし、できればサラリーマンの家に生まれたかった・・と思った。

消しゴム1個50円、、鉛筆1本30円、、
このケチ臭い・・商売はなんなんやろう。

寝るところも、起きるところも、帰ってくるところも、文房具屋しか選択肢がなかったので、物理的な縁を切ることは、もちろん出来なかったけれども・・。

それから長い間、、ぼくは文房具屋と文房具に対して心の中で縁を切った。

「お父さんは何の仕事してはんの??」と誰かに聞かれるたびに、、

「事務機の販売会社の経営です」と答えるようにした。

今から7年前かな、・・・ようやく思い出した・・
「文房具屋に生まれて」やっぱり、よかったということを・・。