全章の一覧

    プロローグ    第1章 おばーちゃんの店    第2章 おとんの決断    第3章 通天閣
    第4章 オートマチック TOYOTA かむり    第5章 ブルーメタリックの万年筆    第6章 小さな文具屋のイノベーション
    第7章 一家に一台「マイ ティーチャー」    第8章 1ダースの消しゴム    第9章 「昭和の第4コーナー」
    第10章 くすり屋に生まれて    第11章 おかんとぼくの暗黙同盟    第12章 幸運の白いヘビ
    第13章 パンチパーマとおんなごころ    第14章 誕生日には筆ばこを・・    第15章 「ままならず」の呪文
    第16章 ファーストラブ(初恋)    第17章 世界で一番暑い秋    第18章 かすれ声のアカペラ・・(素歌)
    第19章 真珠とおしるこ(前編)    第20章 真珠とおしるこ(後編)    第21章 tough pulling(引きの強さ)
    第22章 文房具屋の匂い・・    第23章 さくら色の嘘    第24章 男子、たまに泣いてもいいんよね
    第25章 走ればええねん。ただ速く!!    第26章 朝ごはん、食パン、チーズとマヨネーズ    第27章 文房具屋に生まれて
    第28章 夜道に紺色の浴衣    第29章 違う理由    第30章 祭りの後に・・(前編)    第31章 祭りの後に・・(後編)

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第19章 真珠とおしるこ(前編)

楽しみにしていた修学旅行の季節がやってきた。

南大阪にある小学校の大半は修学旅行の行き先が三重県のお伊勢さんで、毎年この季節にはあの有名な「赤福餅」が町中に氾濫する。

修学旅行の少し前に「赤福餅申し込み書」なるものが学校から配られ、各家庭で相談して、お土産の赤福餅の数を事前に申し込む。

そして修学旅行から帰ったら学校の体育館に集合して、大阪市内の業者が納品した大量の赤福餅をあらかじめ申し込んでおいた数分受け取って、親戚やら近所の知り合いのお土産にするのだ。

旅の思いでを一緒に行けなかった人にお裾分けするといった、本来お土産のあるべき姿とは少し違うものだけれども、せっかちで段取りが良いことを好む大阪人らしいシステムだ。

なにより旅先の貴重な時間をお土産選びに費やすこともないし、重い物を持っての移動で旅の楽しみを半減させられることもない。

という訳で、この季節は町中に赤福餅が飛び交って、うっかり娘と息子が同級生だったことを忘れてしまった親戚同士で10個入りと15個入りの赤福餅を交換するなんていうバツの悪い光景も、そんなに珍しいことではなかった。

修学旅行の前日の夕飯で、おとんが2000円とおばーちゃんが2000円とおかんが1000円くれて、3人とも声を揃えて「家族のお土産はこうてこんでええから・・」といった。
きっと大事な時間やお金を家族のために使わず、旅を楽しんできて欲しいとい意味だったんだろう・・。

当日、ぼくらは学校のグランドに集合して、校長先生の話を聞いた。
校長先生は「くれぐれも他の学校の生徒とけんかをしないように・・」と3度くらい話しの中に盛りこんで、本気で心配そうに生徒たちを学校から送り出した。

僕たちは近畿日本鉄道・・いわいる近鉄の特急に乗って、鳥羽に向かった・・。
前から3両がぼくたちの学校貸切でその後ろの車両から別の学校の生徒が乗っていた。
3両目と4両目の境には互いの学校の先生が座っており、生徒たちが接触しないように見張っていた。血気盛んでけんか好きな河内の小学生たちが、他校の生徒と接触した瞬間少なからずいざこざが起こるからだ。

鳥羽駅に着いたら駅前にバスが待っていて、そこから鳥羽水族館に向かった。

水族館を見て回っている間、ぼくの後ろを歩いていた小太りの北村くんはエビやカニやタコを見る度に「うまそう!!」と言っていたけれど・・。
さすがに海へびのコーナーに来た時には何も言わなかった。

水族館の後は全館5階建てくらいある真珠の大型店に寄った。

僕たちは1クラスずつ、会議室みたいなところに入れられて、真珠ができるまでの工程を物語にしたVTRを見せられた。VTRの最後に海女さんがアコヤガイを開けると大きな真珠が現れるという内容だった。

VTR室の隣は、展示会場で小学生でも手の届く特価品をずらりと並べてあった。
何人かのグループに一人のおばちゃんがついて「値札からさらに半額にしてあげるから、おかーちゃんにこうて帰り・・。喜ぶで・・。」と言った。

みんな夢中で真珠の品定めをして、大半の生徒はなにがしらの真珠の加工品を買った。

出掛けの朝「お土産はいらへんからな・・」とおかんに念を押されたことを思い出したのだけれども・・。
ぼくも、小さな真珠のペンダントヘッドを6000円の半額で1つ買った。

他校とのいざこざに神経を集中していた先生たちも、この時ばかりは一心不乱に真珠の品定めをしていた。まさに「真珠パワー」だ・・。